Essay ― モーリの独り言

4th 「道具の選び方について」 

 

単に硬いだけでは

ヒネリを効かせたときにプレーが淡泊になりがち

 

今回は、ビリヤードにおける「道具選び」についてお話しします。

 

キューの「バット」と「シャフト」のそれぞれで「硬い」「中ぐらい」「柔らかい」の3つの硬さがあるとすると、全部で9種類の組み合わせが考えられます。

木のたわみが手元で起きない「硬いバット+中ぐらいのシャフト」というものや、逆に手元がたわむ「柔らかいバット+硬いシャフト」というようにです。

 

初めて自分のキューを選ぶときは別として、キューを選ぶときには、バットのデザインだけをみるのでなく、これらの組み合わせのなかで自分に合っているものを探すことが、本当のキュー選びなのではないかと思います。

 

 キャロム・ビリヤードでは、バットにしてもシャフトにしても、ふにゃふにゃした柔らかいものが使われることはほとんどありません。

キャロム・ビリヤードは、ポケット・ビリヤードに比べてボールは重たく、ハード・ショットを要されることも多いです。

そのためキューには、構造的にも材質的にも硬くてしっかりしたものが求められ、「硬いバット+硬いシャフト」という組み合わせが選ばれることが多いのです。

 

でも、単に硬いだけですと、ヒネリを効かせたときにプレーが淡泊になりがちです。

キャロム・ビリヤードのプレイヤーのなかには、グリップにゴムを巻く方も少なくありませんが、それはそのプレーの淡白さを補うためでもあります。 
 

 

「スネーク・バイブレイト」といって

ヘビのように2か所で振動するシャフトもあった

 

一方でポケット・ビリヤードのキューは、昔は柔らかいものが主流でした。

たとえるなら、キューのたわみでボールを捕まえて、棒高跳びのようにポーンとボールを押し出せるようなものです。

また、「スネーク・バイブレイト」といって、ヘビのように2か所で振動するシャフトもありました。

 

その当時は「ローテーション」がゲームの主流で、これは15個のボールを使用しますから、ラックはナインボールよりも大きいです。

しかも昔は、ブレイク・キューがなく、プレー・キューでブレイク・ショットを行っていました。

ですからラックを効率よく割るためには、キューのしなりを利用する必要もあったのです。

加えてポケット・ビリヤードは、キャロム・ビリヤードよりもボールが小さくてキュー先の径が大きいですから、元からしてキャロム・ビリヤードのキューほどには剛直でなくてもよかったのです。

 

しかしながら最近では、ナインボールやテンボール以外のゲームがプレーされることがほとんどなくなりましたし、ブレイク・キューもできました。

そのため、そうした性能としての柔らかさが求められなくなりつつあります。

 

ナインボールは、キャロム・ビリヤードの種目と違って、中心に近い撞点、縦の変化と少しのヒネリだけでこなすことができます。

実際、ナインボールの試合を1時間見ていても、ハードショットを見ることは少ないです。

フィリピンや台湾のプレイヤーですと、ギューンと引いたりヒネリを強く効かせりしたショットを見ることがありますが、おしなべて多くのプレイヤーは、キューに負担がかからないようなショットをしています。

 

ですから今のポケット・ビリヤードのキューは、どちらかというと「中ぐらいのバット+硬めのシャフト」という組み合わせで作られているものが多く、そういうキューが信頼性が高いと考える人も多いのではないでしょうか。

言い方を変えると、狭い撞点を正確に撞くことに特化したキューといえます。
 

 

ゴルフのバンカーショットは

どんなに頑張っても200ヤードは跳ばない

 

さて、自分に合ったバットとシャフトの組み合わせがわかると、次の段階として「どんな硬さのタップを使うか」という話に入っていきます。

 

硬すぎず柔らかすぎない中庸のキューであれば、大体が「M」で対応できると思います。

でも、硬さを中和させることを目的として、硬いキューに柔らかいタップをつけることは、あまりオススメできません。

 

もちろん、ショットしたときに「キンキン」いうぐらい硬いキューに柔らかいタップをつけることは、救いになるとは思います。

でもタップの作り手としては、硬いキューであってもしっかりした感触があるMぐらいの硬さのタップをつけることをオススメします。

特に、あまりパワーがない人が硬めのタップを使うと、イキイキしたショットができるようになると思います。

 

「硬いキュー+柔らかいタップ」の組み合わせよりもオススメできないのは、「柔らかいキュー+柔らかいタップ」というチョイスです。

この組み合わせですとパワーをロスしやすく、ショットがボケてしまいます。

 

ゴルフのバンカーショットは、砂を噛んでいますから、どんなに頑張っても200ヤードは跳びません。

それと同じで柔らかいタップですと、ヒットした瞬間にパワーロスが起きやすいのです。

 

それに対してMやQのようなしっかりしたタップですと、硬いけれども弾力があります。

ですから、入ってくるパワーを減衰させませんし、受け止めすぎることもありません。

 

野球でも、硬球と軟球を同じバットで打つと、硬球のほうが跳びます。

それと同じことです。

タップでパワーを殺してしまうのは、もったいないと思います。

 

 

皮のしっかりした部分を使いながら

柔らかいタップを作ることは難しいこと

 

実際に世界的にみても、Mが一番多く使われているのは当然として、SとQの使用者数を比べると、地域によって異なるものの、概してQのほうが多いです。

ただ、だからといって、Sがオススメできないということではありません。

 

Sをオススメするのは、キューを握らずにブランコのようにスイングさせてショットする方です。

そうしたストロークの場合、ボールをしっかりと捕まえることが難しく、かつタップと十分に密着しないままボールが跳び出していきやすいです。

ですから、Sのような柔らかいタップを使って、ボールを捕まえやすくするといいと思います。

 

ちなみに弊社がタップを製作するまでは、SやQのような「硬さの種類」というものは存在しませんでした。

さらにいうと、Sのような柔らかいタップを長い期間にわたって作り続けることができたメーカーもなかったのです。

 

昔でもタップに求められたのは、ショットしたときの感触の良さなどの前に、まず「壊れない」ことでした。

そのためには、皮のふかふかした部分ではなく、しっかりした部分を使わなければなりません。

でも、皮のしっかりした部分を使いながら柔らかいタップを作ることは、難しいことです。

 

プレスしなければ作ることは可能ですが、それでも柔らかいのは最初だけで、使っているうちにどんどん硬くなったり、膨らんだりしてしまいます。

つまり長い間、柔らかさを保つことはできませんから、品質が安定しませんし、頻繁に交換する必要も出てきます。

 

こうした面からみても、柔らかくて安定したタップは、積層構造でしか作ることが難しいのです。

 

 

宮本武蔵は巌流島で

本当なら自分が気に入った刀で佐々木小次郎と戦いたかった

 

道具選びは「武器選び」です。

「このタイプのキューだとあの手のショットが有利になる」「前のキューはこういう重さ・テーパーだったから次はこういうキューにしてみよう」といったことを考えて、「自分なりの公約数を出す」ということが「道具を選ぶ」ということなのだと思います。

そしてざっくりした言い方をすると、同じ練習量であれば、「道具は武器」と考えて道具を選んでいる人が勝つと思います。

 

宮本武蔵は巌流島で、本当なら自分が気に入った刀で佐々木小次郎と戦いたかったのかもしれません。

でも、「絶対に勝つためには小次郎の刀が届かない道具が必要だ」ということで櫂(かい)を選んだのではないでしょうか。

見栄を捨てて戦ったことがスゴイと思いますし、ビリヤードの道具選びにしてもそれに通じる部分があると思います。

 

デザインやショットしたときの感触がお気に入りのキューを使えば、気持ちよくプレーできると思います。

でも、充実したプレーになっているかというと、それはまた別の話です。

 

最終的には皆、気持ち良くプレーできるよりもアベレージを上げたいでしょうし、うまくなりたいはずです。

もちろん、道具に頼りきるのではなく、苦手なショットをトレーニングで克服することも必要ですが、そうして自分にとって武器になる道具を探して、選ぶようにするのがいいと思います。