1st 「積層について」
呼ばれ方は3種類。
「マルチレイヤード」「ラミネート」、そして「モーリ・スタイル」
今回は、弊社がタップ開発を行うなかで、「積層」にたどり着いた理由についてお話しします。
モーリタップは「積層タップ」のオリジナルですが、タップを指して「積層構造」ということを最初に言ったのは、実は弊社ではありません。
「モーリタップ=積層」となったのは、アメリカのプレイヤーがモーリタップを見たときにそう呼んだことが始まりなのです。
呼ばれ方は3種類ありました。
「マルチレイヤード」「ラミネート」、そして「モーリ・スタイル」です。
これらのうちのモーリ・スタイルという言葉は、その後、タップの枠を越えて「製法の一つ」として使われるようにもなりました。
それまで単板や単一素材で作られていたものを、複数の素材を貼り合わせて作ったときなどに「それはモーリ・スタイルだね」と言うことが流行った時期があったとさえ聞いています。
「厚いタップ=いいタップ」。
嵩を上げて厚いタップを作ることが絶対条件
ただ、弊社では、タップを開発し始めた当初から積層にしようと考えていたのではありません。
タップの開発を始めたのは今から30年くらい前のことで、材料となる革を探したところ、薄いけど質のいい革であれば安定して仕入れられるものを見つけることができました。
でも、そのころの先角の素材は、象牙やシャチの歯が主流で、それらは「目」があるためにタップが薄いと割れてしまうこともありました。
ですから当時は、「タップが厚ければ先角が割れる心配が少ない」ということなどから、「厚いタップ=いいタップ」と考えられていました。
つまり、プレイヤーに受け入れてもらうには、嵩を上げて厚いタップを作ることが絶対条件だったのです。
「薄いけど質はいいですよ」では認められませんし、プレイヤーが不満に思っている薄い単板の焼き直し版を作ったところで売れないのは明白でした。
そこでその革は諦めて、別の革を探しました。
ところが、単板で使えるくらいの厚さがある革となると、あるにはありましたが、安定して仕入れられるものとまでになると、いくら探してもどこにも見当たりませんでした。
それもそのはずです。
その当時、高級なタップは、フランスから大体1年に1回くらい入荷していたのですが、前の年に入荷したタップと今年入荷したタップとでは、同じメーカーでも全然違いました。
品質がどんどん落ちていて、革も目に見えて薄くなっていたのです。
フランスで100年もの歴史あるメーカーですら厚い革を仕入れられなくなっているのに、タップに適した良質で厚い革が市場に出回るはずがありませんでした。
一方、単に嵩を上げるだけの話なら、昔からある「座(※1)」を使う方法もありました。
先角の上に座を取りつけて高さを稼ぐのです。
でも、フランスの老舗メーカーでさえ薄い単板のタップしか作れなくなったなかで、それと同じように日本で買える限られた薄い革を使って単板のタップを作って、そこに座をつけて「これでいかがですか?」といっても認められるはずがありません。
ちなみにこういうことを考えているころから、タップ作りが趣味ではなくなりました。
「どこかに商品価値をつけないと競争には勝てないし、ガレッジワークで終わってしまうな」と感じるようになりました。
「薄い革を上手に張り合わせることができれば
無限に厚くすることができる」
さて、いくら頑張っても、当時の「いいタップ」の条件である「6ミリ以上の厚さ」がある牛の原皮をコンスタントに買うことはできません。
一方で、薄いけど質のいい革なら手に入れられます。
でも厚さがないといいタップとは認められません。
難題に対して考えた末にふと思いつきました。
「薄い革を貼り合わせてみてはどうか。上手に張り合わせることができれば無限に厚くすることができる」。
そこで最初は、薄い上質な牛革を仕入れて貼り合わせてみました。
ところが牛の皮というのは、あの厚みがあるから強いのであって、スライスして薄くするとすごく弱いのです。
そのため接着はできましたが、ボールを撞いてみると繊維がすぐに切れて「カキンッ」と壊れてしまいました。
革の本にも書いてありますが、皮の繊維の絡み方は「三次元編み目構造」といって厚みが倍になると強度は4倍にも5倍にもなります。
でも逆に、一体になっている繊維をブツッと切ってしまうと、強度が著しく落ちてしまうのです。
これは牛以外の強くて厚い皮をもっている動物、たとえば象とか熊も同じです。
そこで「元々皮膚が薄くて、かつ強い動物はいないのかな」と考えました。
そうしたらいました。
それが豚なのです。
豚は皮下脂肪が多く、その皮は、厚い脂肪の外側にせいぜい2ミリくらいあるだけです。
その2ミリの皮を平滑にするためにスライスすると、最大でも1ミリしか残らないのですが、豚の皮は元々薄くて強く、そのため表面を平滑にした程度であれば繊維の分断が最小限に抑えられ、強度もほとんど変化しませんでした。
そこでモーリタップの素材には、薄くても抜群に強い豚革を使うことにしました。
「もっと高次元のところで品質をそろえれば、
今の単価の何倍でも買ってもらえるはず」
ところで昔のタップは1箱50個入りが普通で、品質にバラツキがあるのも当たり前でした。
それがわかっているのでプレイヤーは、1箱のなかからいいタップだけを自分で選んで買いたいところですが、売る側からすると、いいタップだけを持っていかれて品質が良くないタップだけが残っても困ります。
当時、タップはビリヤード場で買って店員さんに取りつけてもらうのが一般的でした。
ですからビリヤード場は、タップを1箱買って「上手い人用のAランク」「そこそこの人用のBランク」「貸しキュー用のCランク」とタップを選別して販売していたものでした。
また、個人で1箱買って、Aランクだけを自分で取って、それ以外をほかの人に売る人もいました。
ただ、箱の中身にバラツキがあるだけでなく、箱によってもバラツキがありました。
そのため、当たりが多い箱を買えば得した気になるし、一方でBランクしか入っていない箱だと高いものを買った気になったものでした。
そういうわけでプロ選手を含む多くの上級者は、こんなことを考えていました。
「いいものなら高くても買うから選ばせてほしい」。
「1,000円でも2,000円でも出すから高級品がほしい」。
つまり「いいものを安く売ってほしい」という考えはなかったのです。
ちなみに当時のタップ単価は、小売りで100~300円くらいで、400円くらい出せば相当いいタップを買うことができました。
そんな状況を見ていて「そこだ」と思いました。
いいタップがほしいがために、タップ単価の何倍ものお金を出して1箱買う人がいるということは、「もっと高次元のところで品質をそろえれば、今の単価の何倍でも買ってもらえるはず」と考えたのです。
でも、いくら良質で厚い革を手に入れられたとしても、1枚のなかには肉でいうヒレもあればサーロインもあり、それを使ってタップを作ったのでは品質を安定させることはできません。
つまり品質をそろえて当たり外れをなくすためには、牛の単板ではダメなのです。
それで「これはもう積層しかあり得ない」と考えました。
このようにモーリタップを積層にした理由は2つあります。
厚みを作ることが一つ。
そして、品質を安定させることがもう一つです。
これが積層の存在意義であり、こうして積層タップ「モーリタップ」が誕生したのでした。
※1:先角を保護するためにタップと先角の間に取りつけられるパーツ。
紙やニカワで固めた薄い革を圧縮して作られる